第112回 あなたが魅力的だった時代

こんにちは、楳林です。週末の寒さで、治りかけた風邪がぶり返しそうでしたが、かろうじて踏みとどまっています。先週のエクササイズは「あなたにとって忘れられない1冊の本って何ですか」でしたね。何通か紹介します。

「わたしにとってのそれは、中学の時に読んだ『石川啄木詩集』です。いつも『この本が私の本好きの原点だ』と思っていたわけでもないのですが、改めて考えると、やはりこれです」(Sさん、35歳、ライター)。

「その本は学校の図書室にあったのですが、『東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて・・・・』と始まって、どのページをめくっても悲しいんです。表紙は古びていて、ほどよく汚れていてそれ自体『悲しい』んです。悪いこととは知りながらも、その本は私のモノにしてしまいました。つまり返さなかったのです。今でも本棚の隅にひっそりと悲しく佇んでいます」。

「でも、その後続く本好きの始まりの一冊ということで、『忘れられない1冊』となると思います」。

きっとその時の自分の心象風景に重なったのでしょうね。その時からあなたの旅が始まったのかもしれませんね。自分でも始めたばかりでちょっとおこがましいんですが、もう一度その本をじっくり読んでみることをお勧めします。

何故なら先週からぽつぽつ「ジャン・クリストフ」を読み始めて、改めてその深さ、豊かさに圧倒されているんです。でも始めて読んだ時、確かにその深さを感じている自分がいることにもどこかで感じるのです。きっとSさんも「悲しみ」だけでない、啄木のすばらしさを感じる自分の資質に思い出すきっかけになるかもしれませんよ。

もう1通。「私の忘れられない1冊は五味太郎の『まどからのおくりもの』という絵本です。高校の保育の授業の時に先生が紹介してくれた本です。五味太郎が、今のようにまだ知られていない時から大ファンになりました」(Mさん)。

まだ有名になる前から興味、関心が持てるというのは何か自分で宝物を発見したような感じですね。五味さんという人の作品のどんなところが気に入ったのですか?

ところで、今、村上龍の「13歳のハローワーク」が話題になっていますが、今回のエクササイズとも関連していると思うので、ちょっと取り上げてみたいと思います。13歳というと中学1,2年位、その頃に好きだったことを手がかりにして具体的な仕事、職業を探してみるという試みですね。自分自身を振り返ってもその頃がとても重要だな、と思うからです。

キャリアデザイン研修で30~50歳の方に、「小さい頃好きだったこと、やりたいと思った仕事は何ですか?」を書いてもらうことがあります。そして発表する時、同時に「その中で今でも欠かせない要素が何かありますか」ということも聞いてみます。それを話す時、みんなの顔が生き生きしているのが印象的です。

音楽家の坂本龍一が「この困難な時に、この本に出会えるかどうかは、その子の一生を決定するだろう」と広告文で語っていますが、私は常々こう思っています。「誰もが、そのころ好きなものに出会っている。でもいつの間にか、諦めたり、忘れたりしている」。

キャリアカウンセリングやコーチングの現場で、クライアントの方の旅に付き添って、そういう世界を再発見した時ほど、ワクワクすることはありません。クライアントが突然、魅力的に見えるときでもあるんです。

ですから、この「13歳のハローワーク」が売れているということは、やっとそういう時代に来たな、と思えるのです。働くこと、あるいは職業の選択、転職ということを今までよりもう少し深い意味で見ていく、それがライフキャリアではないかと思っています。

ということで今週のエクササイズです。

●「中学1,2年の頃、あなたが好きだったことは何ですか」